白内障、緑内障手術症例7

87歳男性 両眼白内障(左水晶体動揺)、落屑緑内障

術前術後
右眼
 遠見
 眼圧

0.6(n.c)
22mmHg
右眼
 遠見
 眼圧

1.0(1.2×-0.50D)
10mmHg
左眼
 遠見
 眼圧

0.2(0.3×-3.00D)
44mmHg
左眼
 遠見
 眼圧

1.0(1.2×+0.50D)
12mmHg
屈折度は等価球面度数

数年前からの両眼視力低下のため当院を受診されました。

初診時両眼に中等度の白内障が見られ、水晶体前面に落屑物の付着が見られました。落屑物付着が見られる場合は水晶体の支えであるチン小帯が弱いことが多いですが、この患者様でも左眼の水晶体動揺が見られ、左眼は高度のチン小帯脆弱が推察されました。また、眼圧は右22mmHg、左42mmHgと高値であり、落屑物による緑内障(落屑緑内障)が合併していました。

落屑緑内障は眼圧高値になることが多く、予後の悪い緑内障であり、点眼治療のみでは眼圧が十分に下降しないことが多くあります。この患者様は緑内障未治療の状態でしたが、視野障害は中等度から高度であり、早急な眼圧下降が必要な状態でした。落屑緑内障は線維柱帯での流出抵抗が上昇していることで眼圧が上がるため、線維柱帯切開術が非常に効果的なケースが多くあります。そのため、両眼の白内障手術と同時に線維柱帯切開術を行う事が望ましいと思われましたが、左眼は水晶体動揺があったため、通常の白内障手術は難しく、硝子体手術と眼内レンズ強膜内固定術(強膜にレンズのループを埋め込んで固定する方法)が必要な可能性が高い状態でした。

先に左眼の手術を行ったところ、術前に予想した通りチン小帯が非常に弱く、手術中に水晶体脱臼が生じたため、水晶体除去後に硝子体手術と眼内レンズ強膜内固定術を行いました(線維柱帯切開術は行えませんでした)。右眼はチン小帯は弱かったものの、通常の白内障手術で行えたため、線維柱帯切開術も併施しました。術後右眼は視力が(1.2)まで改善し、眼圧も10台前半まで下降しました。左眼も視力(1.2)まで改善しましたが、線維柱帯切開術を行えなかったため、点眼治療下で25mmHg程度と下降が不十分でした。そのため、左眼は眼の状態が落ち着いてから線維柱帯切開術を行い、無事眼圧も下降しました。

落屑症候群は緑内障の原因になるのみでなく、チン小帯脆弱や散瞳不良の原因となり、白内障手術時に手術が難しくなる要因となります。眼圧が上がりやすく、緑内障を発症した場合は進行が早いことが多いため、眼圧管理も厳格に行っていく必要があります。本患者様では左眼は通常の白内障手術では行えず、硝子体手術と眼内レンズ強膜内固定術という特殊な方法が必要になりましたが、手術後は視力も著明に改善し、眼圧も十分に下降することができました。

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shinohara