緑内障手術症例1

66歳男性 血管新生緑内障  線維柱帯切除術

以前より糖尿病網膜症のため某大学病院で経過観察をされており、当院受診の1年前に両眼の白内障も受けられておりましたが、白内障手術後に右眼の緑内障を指摘され、点眼薬での治療を行っていたものの、どんどん右眼が見づらくなるとのことで、当院を受診されました。

当院初診時、右眼視力(0.08)と高度に低下しており、右眼圧は33mmHgと高値でした。眼底は右眼はレーザー治療後で、糖尿病網膜症自体はそれほど悪くないようでしたが、虹彩に新生血管が見られ、糖尿病網膜症の中でも最重症の合併症の一つである血管新生緑内障を発症していました。視野も高度に障害されており、このままでは1ヶ月程度で失明に至る可能性が高く、早急に治療を行う必要がある状態でした。新生血管を退縮させるために、急いで汎網膜光凝固(レーザー)の追加を徹底的に行った上で、抗血管新生療法であるアイリーア硝子体注射を行いました。発症早期の血管新生緑内障であれば、これらの治療で抑え込めることもありますが、発症から時間が経ち隅角の癒着も生じていたため、眼圧を下げるための手術を行わないと眼圧が下がらない状態に至っていました。そのため、レーザー治療と抗血管新生療法の後に早急に線維柱帯切除術を行う事となりました。

線維柱帯切除後、前房水が結膜下に流出して結膜下に濾過胞がきれいに形成され(画像の矢印)、眼圧は10mmHgまで下降しました。現在まで眼圧の再上昇はなく、視力も高眼圧で痛んでいた視神経が回復したためか(0.6)まで改善し、失明を回避することができました。(一般的に眼圧で痛んだ視神経が回復することはないため、緑内障の手術後に視力が回復するのは稀です)

血管新生緑内障は治療抵抗性の難治性緑内障であり、この患者様は幸い手術で眼圧が下がってそのまま維持できていますが、複数回手術が必要になったり、手を尽くしても眼圧が下がらずに失明に至ったりすることも多い病気です。そのため、血管新生緑内障を発症させないことが大事です。糖尿病網膜症に伴って生じる場合は、ほとんどが網膜症が高度に進行した増殖性糖尿病網膜症に至った後で発症します。しかし血糖の状態が悪いと、稀にこの患者様のように、糖尿病網膜症があまり目立たない状態からでも白内障手術がきっかけで血管新生緑内障を発症するケースもあり、注意が必要です。

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shinohara